06年度 前期沢面 広瀬Party 予備合宿Part3

比良 安曇川水系 奥ノ深谷遡行・口ノ深谷下降


【日時】
7月29日入山 30日下山 1泊2日 予備日2日(行1完1) 4人

【メンバー(隊列)】
平澤−岩田−北村−広瀬

【行程】(時間は休憩を含まない、Escapeの時間はコースタイムで記録ではない。)
1日目:林道−(7:00)−橋−(1:10)−C.S.1・口ノ深出合い
2日目:C.S.1−(3:08)−13m飛瀑−(1:34)−牛コバ−(0:30)−坊村
Escape1:橋−(1:00)−林道
Escape2:C.S.1−(1:00)−わさび峠−(1:30)−坊村

【備考】
 今期はPart1終了時にメンバーの岩田が負傷してしまったために予備合宿の完成はすでに不可能な状態にあり、Part2である藪漕ぎと今回のPart3で前期沢面の予備合宿は終了とする。よってこのPart3での主目的は夏の合宿代行P.W.に向けて新規メンバーの沢技術を向上させることと、Secの岩田を来期Topでスタートさせられるように十分な沢経験を積ませランビレ・下降の訓練を行うことである。

7月29日(1日目) 晴れ時々雨

 午前4時BOX集合。いよいよ今期の沢面最後の予備合宿の日がやってきた。残念ながら合宿はP.W.に変更になってしまったが、幸い平澤や真介に協力してもらってかなりの数のP.W.を出せそうなので、ことしの夏も十分充実した内容が見込めそうではある。

入山
 とりあえずCLがドライバーで、早朝のほとんど車のいない道を適当に飛ばし5時前に坊村に到着、車を駐車して目的の入渓地点に向かって登山道を登りだすことにした。6時前に入渓地点に到着し、手早く沢装備を着けて遡行を開始することに。今週は雨の日が続いていたため、水量は一見しただけで明らかに増加していることが感じられるほどであり、そのためこの後の遡行では、奥ノ深という比較的規模の小さい沢の中とは思えないほどの迫力のある光景を何度かお目にかかることになるのである。20分ほどで最初の斜4mに到着、水量がかなり多く、本来水線上を横切って登れる滝だったのだが最初から濡れるのもいやだったので右岸から巻くことに。

ランビレ その一
 直後の樋状3mは特に問題は無く、6時半には1つ目のランビレ地点である2段10mに到着した。2段10mは一段目を直登して、2段目より落ち口の右側の壁面でランビレを行う予定の滝である。1段目をさっと登り手早くランビレ準備に入ったのだが、それにしてもすごい水量だ、落ち口から怒涛のように水が流れ落ちていっている。俺はランビレ中に手があいていることもあって、岩田にデジカメを借りて落ち口の写真を撮ることにした。(残念ながら流水の写真はうまく撮れなかったが)
 問題となる2段目の左岸岸壁にはほとんど水がなかったので、スムーズにランビレを行えるようである。Secの岩田は1本目のハーケンを十分な深さまで打ち込むことができ、2本目は奥まで入りきらなかったものの、根本にスリングをかますことで十分な効きを得ることができた。最後の一本は回りに有効なビスが見当たらなかったため立ち木にスリングを巻き、2点流動分散に補助を付ける形で支点の設営を完了とする。平澤は2本打ち、効きも十分だったのだが1本が角度的に抜けなくなってしまい、そのためSecの岩田がかなり悪戦苦闘していたのだがどうしても抜けず、最後にはCLが上から空荷でザイルを着けて降りてロックハンマーまで駆使して奮闘してみたが、足場がぬめって十分な力が発揮できなかったため断念、結局残置することになってしまった。
 8時に1回目のランビレを終了し、15分に斜10mを越え、35分に9m滝の右岸巻きを開始した。直登に比べれば地味で体力も消費するため沢中の巻きは嫌われがちであるが、安全に、かつ素早く滝を巻くのは飽くなき修練を必要とする沢面必須の技術である。奥ノ深のような小規模の滝ではそれほどの巻きは出てこないが、近畿でも南紀の辺りでは1時間以上かかる大巻きが頻繁に登場する谷もざらにある。今回は普通に落ち口ぎりぎりの所を巻いたが、滑落したら致命傷になるため0期メンバーには念のため最後のところでザイルを出す。少し上のところにより安全な巻き道があり、雨天時はそちらを使うのがお勧めだろう。
 9時過ぎに型3m、15分ほどして2回目のランビレ予定地点である斜7mに到着した。斜7mは釜を少し泳いで直登し、中段部からやや危険な箇所をランビレして抜けるという構造になっているのだが、沢面の癖にカナヅチであるTopの平澤はいつも通り無理な跳躍を駆使して泳がずに突破していた。(わずか数mの距離なのに…)
 上部のランビレ地点まではみな問題なく通過できたのだが、ランビレ地点はかなり困ったことになっていた。肝心のランビレを行う壁面に鬼のようなシャワーが降り注いでいるのである。このままこの場所でランビレを行うと、普通に通過すれば一瞬濡れるだけですむはずの場所で数十分間流水にさらされ続けることになる。(ランビレをするのはTopの平澤とSecの岩田だけなのだが)さすがに平澤から、「勘弁して」と言われてしまうにあたって、俺もここでのランビレは諦めることにした。ここで2回のランビレができないと、岩田の経験値不足で来期のTopスタートの許可がおりないだろうことはわかっていたが、幸い夏に明王PWを予定していたので最悪そこでSecのランビレ練習をさせることができるだろうということで、この場はさっと通過することにした。

ランビレ その二
 ランビレをしないならこのまま奥ノ深谷はかなり短いコースタイムで抜けれそうだなと思っていた矢先に、目前に逆くの字12m滝が現れた。そしてここで俺と平澤は再び決断を要することとなったのである。目の前の滝はぱっと見だがランビレができそうな感じではある。下部はほとんど打ち込めそうなところは無いが、上部のほうは1〜2本は打てそうであり、最悪立ち木にスリングで支点を取るという手も使えなくは無いだろう。だが、前情報が無い場所でのランビレに数時間を要したあげく、結局1本もハーケンを打ち込めなかったなどとなればまさに最悪である。なんとなれば今日の午後の天候は思わしくないのだ、できるだけ早くテン場に着きたいのは山々なのだが…。
 結局のところいつも通りの、「まあやれるだけはやってみよう」という行き当たりばったりの精神でランビレを敢行することとなった。幸い下の足場はしっかりしており、側面の壁にもすぐにビスが見つかったためSecの岩田は比較的短い時間で十分に効いているハーケンを3本打ち込むことができたのだが、問題はやはり平澤のほうであった。なにしろ表面がスラブ状の岩質であるため打ち込めるビスが全くといっていいほど見つからず、前知識もないため相当の苦戦をしいられていた。(まあ実践でランビレを行うことになったらどの道前知識などあるはずがないのだから、ちょうどいい練習になったと思えなくもないが)奮闘の末に最初の一本目は突き出した石にスリングで支点を取り、2・3本目は相当上の方まで登って打ったのだが、(もはやこの時点でSecのビレイ確保はほとんど格好だけのものとなってしまっていたが…)3本目が途中で抜けるにあたっては、ついに平澤もランビレの続行を断念したようだ。結局ここでTopが打ち込めたのは1本だけであった。
 ランビレ終了後、小雨がぱらつきだしていやな感じだったが、時間が時間なので少し行った林の中で昼食レストをとることにした。時期が遅いため寒いというほどではないし、ランビレ中に雨が降らなかっただけでもよかったといえるだろう。昼食後12時半頃に行動を再開し、40分に7m滝の左岸巻きを終えたすぐ後で、沢としてはほぼ終了地点の最終支流分岐を通過した。この頃にちょうど雨が止み、だらだらと川の右岸の道を歩いていたら左手に北に向かう登山道を発見する。すぐそばの立て札に大橋と書いてあったので、おそらく少し上の方の山腹に尾根上の登山道があり、それを通って橋に向かう道だと思われたが、確証が無く過去にそのような道を通った記憶も無かったので沢沿いの道をそのまま進むことにした。それにしても遡行図に何も書かれなくなってからの道がやけに長く感じる。(本当に時間距離で書かれているのか?この遡行図)
 結局1時半前に橋に到着し、各自沢装備を解除してようやく一息つくことができた。ここから先は登山道なので、みな今日の仕事は大体終わったという雰囲気だ。(重たい沢装備を外せる開放感からか、沢面は登山道に入ると途端に緊張感が無くなるのである)その後は沢中とは比べ物にならないほど歩きやすい登山道を進み、CLなどは半分居眠りしながら2時半に登山道の最終分岐で一度レストをとって、3時に中峠、そこから15分後にCS1・口の深谷出合に到着した。到着した。すでに時間も遅かったためにこんな時間にここを通過するPartyはいないだろうということで、登山道上ではあるがさっさとテントを張って各自天気図・食事の準備を始めることにした。本来ならここで今日の記録は終了であり、後は就寝時刻ぐらいしか書くことは無いはずだったのだが…。この後予期せぬ事態に我々は遭遇することになってしまったのである。

邂逅
 最初にそれがやってきたのは5時ごろ、我々が晩飯を作っている最中であった。7月最終週とはいえまだまだ夜は寒いのでみな当然のようにテントの中で飯を作っていたのだが、どうも外に人の気配がするようなのである。こんな時間にここを通過する人はいないだろうと思ってはいたが、個人山行を行っている人で健脚の持ち主なら今からでも下山できないことは無いだろう。登山道にテントを張っている以上こちらから出て挨拶をするべきだと思ったのでテントから顔を出したのだが、以外にも相手は3人組のPartyであった。しかも話を聞いたところ我々が明日下降する予定の口ノ深谷を遡行してきたらしいが、彼らは今日中に下山するという話だったのでこの時は挨拶だけしてそのまま別れることとなった。
 しかし彼らとはすぐ再会することになる。30分ほどして今度はテントの外から呼ばれたので出てみると、同じPartyに今度は現在地がわからないので教えてほしいと言われてしまった。こんなわかりやすい登山道で、下山路も一本道なのにどうして迷っているのかと思えば、それもそのはず彼らはなんと地図も持たずに入山してきているというのだ。さすがにあきれてしまったものの、ほっとく訳にもいかないので手持ちの地図で現在地と下山道を教え、「夏が近いとはいえ後1時間ほどで日が沈むから急いだ方がいい」と警告して再び別れを告げたのである。

捜索
 その後しばらくして晩飯ができ、空腹を癒すため皆早々に食べ始めていたのだが、時間が経つごとにだんだん先ほど送り出したPartyのことが心配になってきたのである。冷静になって思い返してみると地元民でもないのに地図も持たずに山に登っているというのも変な話しだし、沢を登ってきたはずなのになぜか彼らの内でザックを背負っているのは先頭を歩いていた一人だけで、しかもナップサックといえるような小さいものであった。実質ほとんど何の装備も持っていないPartyを、日暮れまで1時間ほどの時点でコースタイム2時間の下山道に送り出してしまったということになる。「ひょっとしてとんでもなく危険なPartyを送り出してしまったんじゃないか?」とか、「明日下山したら下に彼らの捜索隊が来てたりして」とか各自言いたい放題言っていたのだが、それだけいやな予感がしていたのである。よそのPartyのこととはいえ、もし本当に遭難されたら出会っていたのに危険性を忠告できなかった我々にも責任が無いとはいえない。山を安全に歩けるようにするためのワンゲルではなかったか、「やはり強制的に引き止めてでも、ここに泊まってもらうべきだったか」と俺が後悔の念をつぶやいていると、どこからともなく遠くから人の声のようなものが聞こえてきたのである。
 慌てて外に飛び出してみたものの、彼らの姿は見えない。声の位置を大まかに予測してみると、どうやらこの上の登山道あたりをぐるぐるとうろつき回っているようなのである。俺はこの機会を逃してはならないと思い、大急ぎで平澤・岩田のツーマン・セルで臨時の捜索隊を派遣することにした。道はわかりやすいとはいえ、何しろすでにあたりは暗い。万が一ミイラ取りがミイラにでもなったら目も当てられないので、平澤には無理をしないようにだけ言って捜索に出てもらった。俺と北村が悶々としながら彼らの帰りを待っていると、20分ほどして二人が例の3人組を発見し、強制的にテン場へと連れ戻してきてくれた。

ビバーク
 どうやら道中で平澤が説得してくれていたらしく、すでに彼らもこの場所で一泊することには納得してくれているようだった。しかしそれにしても改めて彼らの装備を確認して見ると、これがなかなかとんでもない状態であった。地図無し、コンパス無し、テント・シュラフ等のビバーク用具無し、雨具の用意すらない上に、沢に入っているのに装備は各自カラビナ2枚とスリング1本のみという惨状である。(ハーネス・メットもなしで、カラビナだけ持ってなんの役に立つというのか…)おまけにヘッドランプすら誰も持っておらず、非常食の用意もないのというのだからあのまま下山していたら遭難必死の恐るべきPartyであった。
 とりあえず最悪の事態は回避できたのだが、相変わらず雨が降ったり止んだりの天気だったので彼ら3人をこの場でビバークさせるにはそれなりの準備が必要であった。(我々のテントは4人用だったので、さすがに7人詰め込むのは無理だったろう)しかしこういう時に必要とされる柔軟な思考と知識は、ワンゲラーの最も得意とするところである。さっそく我々のテントからフライだけをはがし、周囲の立ち木に補助ザイルを張ることで簡易のツェルトとすることにした。下の地面にはビバークザックを敷いてシュラフカバーも1人1枚貸し出すことにしたので、決していい環境とはいえないが1晩を越すぐらいなら何とかなるだろう。後はフライが無くなってしまった我々のテントをどうするかであったが(フライ無しのテントは雨中では中の人間が壊滅的なダメージを受けてしまうのだ)、とりあえずあまった2枚のビバークザックを補助ザイルでテントの上に張り、フライ代わりにすることで何とか落ち着くことができた。
 テン場の用意ができたので、その後彼らに最低限何か食いつなぐものを提供しようと思ったのだが、さすがにこちらの非常食を渡すわけにも行かず(まだ明日も1日下降が残っているので)、秘密兵器のお菓子の残りと、お茶を沸かすことでどうにか寒さをしのいでもらうことにした。お茶を飲みながら彼らの話を聞いてみたところによると、どうやら去年沢の熟練経験者に同じ口ノ深遡行に連れて行ってもらい、その時案外簡単だったので今回もそのままの装備で来てみたということであった。確かに口ノ深は遡行に関しては難易度の低い沢で、初心者でも十分挑戦できる場所であり、おそらくその時は経験者の人がほとんど必要な装備を持っていたのであろうが、初心者だけで装備も持たずに入渓することは非常な危険を伴う行為である。
 この話を聞いて痛感したのは、沢の知識を正しく伝えていくことの重要性である。確かに沢登りは正しく場所を選び、十分に知識と経験のある人に引率してもらえば初心者でも安全に楽しむことができるものである。しかしそのことで沢そのものが簡単で、適当な装備だけでなんとかなるものと勘違いしてしまうのはあまりに危険だ。必要な装備と正しい知識、十分な修練を積んだメンバーですら、沢での事故を完全に避けることはできないのである。ろくに装備も持たず、初心者だけのPartyで沢に入るなど自殺行為以外のなにものでもない!彼らにして見ても、この時期この場所でテントを張っているPartyなど普通はめったにいないので(我々は今回諸事情により入山時期が遅れていたので、今回出会えたのはほんとうに彼らにとっては奇跡的な幸運であった)、本来ならあのまま道もわからないでいるうちに日が沈んでしまい、この寒空と小雨が降る中を、着の身着のままで1晩過ごす羽目になっていたかもしれないのだ。なにしろ冷たい雨に打たれ続けるのは気力・体力ともに激しく消耗する行為である。この時期とはいえ低体温症にかかってしまう可能性は高く、最悪の事態も十分に考えられる状況であった。(それでも彼らがおとなしく一晩を越す覚悟を決めてくれていたとしたならまだいい方で、雨具の無い状態で雨に降られることと、今日中に下山しなければならないという焦りから明かりもなしで夜間の山行を続行していたとしたら、それこそどんな事故を起こしていたとしてもおかしくなかっただろう)簡単に日帰りできると思っていたらしく、家族や知り合いにも山に行くということすら連絡していなかったというのである。明日は早く帰ってその人達を安心させてやってほしいものだ。
 結局彼らとの話を終えて、我々がテントに戻ったのは7時半頃であった。就寝時刻は7時40分としたのだがやはりビバークザック2枚ではテント全体をカバーできず、端の方の雨が直接テントに当たってそのしぶきが顔にかかるのでなかなか寝つけなかった。まあ吹きすさぶ風すらろくに防げない彼らの簡易ツェルトよりは数段ましなのだろうが。幸い夜半には雨は止んだようだ。いつまでも今日の衝撃を引きずっていても仕方が無いので、気持ちを明日の口ノ深下降に移しつつ、俺は浅い眠りについていった。

7月30日(2日目) 晴れ

起床
 午前3時半起床。まだ辺りは暗く空も一面薄曇りの状態ではあるが、少なくとも雨は降っていないようだ。朝食を食べ終わった後、4時頃に彼らを起こして装備を回収することにした。
 フライや補助ザイルは簡単に回収できたが、ガムテープで止めたビバークザックの方は収納が難しそうだ。まあどのみち使い捨てのようなアイテムなので、いざとなったら買い直せばいいだろう。彼らには行動食の一部を朝食代わりに食べてもらうことにした。量は少ないがまあ2時間も歩けば人里に出るのだから、それくらいの間なら持つだろう。
 45分ぐらいまで明け待ちをして、ついでに彼らを下山道の前まで案内することにした。明るいところで見れば間違えようも無い一本道なのだが、やはり昨日は彼らにも焦りがあったのだろう。沢と登山道の分岐地点まで来て彼らとは別れることに、無事帰り着いているといいのだが。

下降
 5時頃に辺りも十分に明るくなってきたので、こちらも出発することにした。最初25分ほど歩いたところで15m右岸巻きに到着。昨日の雨で水量の増加を危惧していたのだが、特に多いとは感じではなく、むしろ雨の口ノ深ばかり経験しているCLには少なめに感じるぐらいであった。さらに10分ほどで樋状5mが現れる。左岸のスラブをフリクションで突破する滝なのだが、こういう場所は沢靴のフリクションに慣れていないと素早く突破するのは難しい。(スラブの滑らかな斜面に足の裏をべったりと張り付けてそのフリクションで突破するのだが、どの程度体重をかけると滑り落ちてしまうのかは経験で覚えるしかなく最初のうちは怖いものなのだ)案の定0期メンバーはまだこの手の技術が苦手のようで時間がかかっていたが、沢の下降自体が初めてなので経験を積むうちに彼らもすぐ慣れてくるだろう。それから20分ほど行ったところで一度レストをとる。(沢中では滝の登攀などに時間がかかると後続は待ち時間中に休めるのであまりレストを取らないことが多いのだが、ここでは起き抜けの1ピッチ目ということと、下り始めでまだあまりめぼしい滝が出てきていないのでレストをとることにした)
 レスト後すぐに斜6m滝横のザックピストン地点に到着した。この場所は滝の右岸を巻いていくコースなのだが、途中に岩に挟まれた非常に狭い隙間に登りこんで通過しなければならないポイントがある。そのため一度ザックを下ろして空荷で通過した後、後続が持ち上げたザックを先に行ったメンバーが引きずり込むザックピストンを用いて突破するのだ。10分ほどで全員が通過した後、足場が悪いので慎重にザックを背負わせる。(足場が悪い場所での事故は、ザックが障害物に当たったり、その重さでバランスを崩したりして起こることが多いのである)この後の滝を普通にC.D.してもよかったのだが、特に魅力的でも無く時間もかかるので下部に続く滝はそのまま右岸から巻くことにした。少し時間がかかったものの30分ほどで巻き終わり、直後の斜12m右岸巻きを終えたところで再びレストをとった。口ノ深の下降は巻きがメインなのでこの先も大体似たような感じだろう。今日はさほど土が湿っていないので比較的苦労も少ないが、やはり下りの巻き道は急傾斜のトラバースが続くので神経を使う。

アップザイレン
 レスト後30分ほどで今回の下降の焦点である、斜10mに到着した。今回の下降の主目的はこの場所を含めて2回のアップザイレンを行うことなので、0期メンバーの動きには特に注意を払うことにする。いつも通りの目印となる捨て縄を少し通過した先の立ち木を支点にして、アップザイレンを開始。さすがに平澤は手早く設営を終えて、Secの岩田に自分が下りた後の動きについて細かく指示した後に、駆け下りるように下って行ってしまった。角度的に下降地点が目視できなかったため、俺が立ち木にセルフビレイでぶら下がって確認することに。下に降りた平澤から合図が送られたところで、今度はSecの岩田が準備をし始めた。俺は手順の確認だけ行っていたが、丁寧に作業を行っており特に動きは問題ないようだったので、下にいる平澤に合図を送って岩田を送り出す。さすがにまだ下降中の動き自体はぎこちない所があるものの、垂直な岩壁のビビルで訓練を積んであるので、それに比べれば傾斜がゆるい分楽だろう。同様に岩田が降りたのを確認した後北村も慎重に送り出し、セルフビレイを回収してすぐに俺も後に続いた。全員が下に降りて安全な場所まで移動してザイルを回収。(このザイル回収時に巻き込まれて落石が落ちてくることがあるので、最後まで気を抜けないのだ)だいたい30分ほどで全ての作業が終了しており、初めてのアップザイレンにしては上々の首尾といえるだろう。この場所はアップザイレンの練習用として重宝しているものの、傾斜はそれほどでもないので好天時はC.D.も可能そうではある。(下部が悪いのでお勧めはしないが)各自気を整えた後で、先に進むことにした。
 すぐ先に左岸巻きの小滝が出てきたが、トラバース気味に下降できそうだったので落ち口のすぐ右側をC.D.し、それから20分ほどで飛瀑13mに到着した。この場所は2回目のアップザイレン練習用地なのだが、C.D.も可能だということなので折り返してC.D.を試みることに。ぎりぎりの急斜面をトラバースしてアップザイレン用の立ち木に到着したのだが、足場が悪く場所も狭いので各自手近の立ち木にセルフビレイを取って待機させ、Topの平澤に様子を見てもらうことにした。(それにしてもこの場所の足場は悪い、雨天時はこのトラバースですらかなりの危険を伴うだろう)どうやらC.D.は可能そうではあったが、0期メンバーに試みさせるのは危険だと判断してアップザイレンをおこなうことにした。(どの道C.D.にしてもザイルなしでやらせる気にはならなかっただろう)場所が狭いので1人ずつ移動して、Topの平澤以外には、俺が手前の立ち木にセルフでぶら下がって指示を出した。さきほどよりも傾斜がきつく下の方は岩盤が露出しているため多少難しくはなっているが、みな問題ない動きで下降してくれた。

下山
 全員が下に降りたところでちょうど9時になったところだったのだが、なぜか皆一様におなかがすいていたのでかなり早めの昼食レストをとることに。おそらく朝が早かったためであろうと思われるが(今朝は例の3人組の簡易ツェルトの撤収や装備の回収などで時間がかかることが予想されたので早めに起きていたのである)、まあ昼過ぎには下れそうな予定なので問題はあるまい。食事中に平澤とこの後の予定について話し合っていたのだが、すでに2回のアップザイレンをこなしているので最後のアップザイレンはする必要が無く、それをカットするとすぐに登山道に合流してかなりコースタイムを短縮できるので「最後のアップザイレン?するわけないじゃん」という平澤の言葉を0.1秒で採用することにした。
 45分頃に再び行動を開始し、15分ほどで高へつりの釜に到着した。本来ここは右岸を高めにトラバースして突破する滝なのだが、先ほどから空には青空が広がって気温もかなり高くなってきており、昼食を食って体力・士気ともに回復していた我々は急遽へつりを止めて目の前の釜に空中放り出しを敢行することにした。もちろん技術的にはまったく意味の無い行為ではあったが、もうすぐ終わりという開放感も手伝って沢面の悪乗り魂に火がついてしまったようだ。平澤以下沢面が続々とザックを釜に放り込み、ついで自らもその体を釜に投げ込んでいった。さすがにまだ水は冷たかったが一瞬浸かるだけなのでそれほどでもなく、むしろ汗を流せた爽快感の方が上であった。下山まであと少しのところでやたらと士気が高くなってもどうしようもないのだが、まあ低いよりはいいだろう。濡れた服も歩いているうちに乾くだろうと、とっとと先に進むことにした。
 10分後に遭遇した10m滝を右岸から巻き、しばらく急斜のトラバースをした後に、かなりのガレルンゼから下降することに。ここも雨天時は困難そうだ。この後すぐに最後のゴルジュの巻き道に入り、10分ほどで最終アップザイレン地点に到着したがあっさりカット。そのまま登山道を進むことに。しかしこの時期の登山道は気候的にも歩いていて気持ちがいい。あっという間に20分ほどで林道に到着し。各自恒例の「おつかれさまー」を言い合って沢装備を解除することにした。
 装備を解除し、適当にレストしている間に下の登山道から複数の沢登りPartyが上がってきていた。この時間に登ってきているということはおそらく白滝谷の遡行者達だろう。「こんにちはー」と挨拶をすると彼らから「若いねー」とか「今が(沢登りの)盛りやね」とか声をかけられたが、手持ちの装備を確認すると相当年季のいったものであるようだ。平澤は彼らの様子を見て「かなりの熟練Partyで、おそらく技術ではあっちの方がずっと上だよ」と言っていたのでなかなか侮れない。この後は結局服を乾かしながらぶらぶらと帰りの林道を歩いていったのだが、しかしそれにしても青空がいい色をする季節になってきた。あの濃い青と向かいの山の緑のコントラストがなんともいえない夏らしい気分を味合わせてくれる。これでは否が応でも夏山への期待感が高まろうというものだ。30分ほどで下山地点の坊村に到着し、その頃には皆服もすっかり乾いていたのでさっさとレンタに乗り込んで帰ることにした。

夏の日差しが…
 とりあえず温泉に入り、出たまではいいが、どうも帰りの間中見られる空のあまりの青さが平澤のハートに火を付けてしまったようで、唐突にこの後ドライブに行かないかと言い出したのである。確かにまだ11時半ぐらいでドライブするぐらいの時間の余裕はあるが、しかし1泊2日の山行を終えた後でなぜそんなに体力が有り余っているんだ平澤よ。おまけに大のドライブ好きである岩田までこの話に食いついてきてしまい、なんだか天橋立まで行こうとか話がどんどんありえない方向に転がっていってしまっている。「みんないったいどうしちまったんだ、夏の太陽に脳を溶かされちまったのか?」などといぶかしんでみても、現状が変わるわけではなく、どうやら一回の北村まで着いて行く気のようである。(まあ北村の立場としては断りづらかっただけだとは思うが)なにしろハンドルを握っているのはドライブ狂の岩田であり、このままではどこに連れて行かれるかわかったもんではなかったので俺はとりあえずBOXに帰ってからにしてくれと懇願していたのだが、どうやらみんなもザックはBOXに放置していきたいらしく、1回は京都に戻るつもりのようであった。
 京都に帰り着いた後、みなBOXに荷物を置いて再び出発する気のようだったが、俺はそこでみんなとは別れを告げることにした。確かにこの青空の下ドライブは魅力的ではあるが、さすがに1泊2日の沢に入った後なので精神的にかなり消耗していたのだ。まあ平澤達が浮かれる気持ちもわからなくはない。この夏の空気を前にしては、気持ちが高ぶらない方がおかしいというものだろう。
 俺は目が痛くなるような青空の下この後に続く夏P.W.に期待に胸を膨らませながら、今日のところは疲れた体を癒すために家路に着いたのである。


文責:広瀬

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