06年度 前期沢面 広瀬Party 予備合宿Part1

比良 安曇川水系 減九谷遡行


【日時】
6月4日入山 同日下山 0泊1日 行1 5人

【メンバー(隊列)】
平澤−岩田−北村−正岡(顧問)−広瀬

【行程】
1日目:坂下−(1:38)−お釜の滝−(2:22)−植林小屋跡−(1:47)−小女郎ヶ池−(1:40)−坂下
Variation Route:植林小屋跡−(2:00)−ワンゲル小屋−(0:20)−ゴンドラ山頂駅
(時間は休憩を含まない、Variation Routeの時間はコースタイムで行動記録ではない。)

【備考】
 今回は沢未経験者2名加入ということで、気持ちを改めて沢面伝統のPart1開催地である減九谷を遡行する。
 Topの平澤はすでに十分なランビレの経験を積んでいるので、今回の遡行の主目的は岩田のランビレ訓練と、岩田・北村の新人組に沢慣れしてもらうことである。

6月4日 晴れ

入山前
 午前5時にBOX集合、今年も沢面が始動する時期がやってきたようだ。
 例年通りレンタで入山地点へ向かうのだが、この時点では新メンバーが結成したばかりで岩田のドライブ好きとその腕前がまだ知れ渡っていなかったので、行きの運転はとりあえずCLがすることにして50分ほどで入山地点に到着した。 入山地点に到着したらさっそく新規沢面に沢装備を着けてもらうことに、当然新規沢面の岩田と北村は装備を着けるのに時間がかかるわけだが、その光景を眺めつつ、「2年前は俺もあんな風に時間をかけて正岡先輩達に待っててもらってたんだなあ」などと過ぎ去りし日々に思いを馳せている間にみな装備を着け終わってしまったようなので、次はいよいよ沢面伝統の新人へのワラジの履き方講座を行うことにした。

 いったいいつ頃から始まったものなのかは定かではないが、京大ワンゲルでは新規の沢面が始めて沢に挑むときには、日本古来より伝わるワラジを履かせるという伝統がある。これは何も意味の無い形だけの伝統というわけではなく、ワラジのフリクションは最新の沢用靴を凌駕するほどのものであり、いざという時に沢靴の代用品として用いることのできるワラジの履き方を習得し、それに慣れるためということが意図されているのである。
 慣れないワラジを装着するのに多少時間がかかったものの、10分ほどで準備を終え6時20分にいよいよPart1入山開始となった。

入山
 沢の水量は例年並みで、水量の多い減九を何度か経験していたCLにはやや少な目に感じた。気温は平年並みよりは多少高いようだったがそれでも寒いことに変わりは無く、まだ動きの鈍い体をウォームアップする感じで30分ほどで減九谷最初の関門、2条8m滝に到着。
 2条8mでは以前水量の多いときに見られた左岸壁のシャワーはほとんど見られず、代わりに右側の直登部分の水量がやや増加しているように見える。 0期メンバーにはいつも通りザイルを出して確保することにしたのだが、Topの平澤はすでに歴戦の沢面なのでザイルワークに関してはまったく問題が無く、その動きにブランクは感じられなかった。
 およそ20分ほどで2条8mは問題なくクリアし、そのまま先に進むことにした。沢中での登攀は初体験となる岩田・北村の両名とも動きに問題は無く、この分なら順調にいけそうな感じである。
 そこから今日の最大のイベントであるお釜の滝ランビレ地点まではおよそ50分ほどで、途中の沢の歩行や小滝のクリアに関してほとんど問題は無かったのだが、Secの岩田がやや沢の歩行に不慣れな感じがしたのが気になるといえば気になってはいた。沢に慣れていないのは1回の北村も同じなのだが、コンパスが長い分と、高校のときにクライミングを経験している分登攀では北村のほうが有利なようだ。ただ沢初体験のメンバーが沢に歩きなれていないのは当たり前なので、この時は「まあ動きを注意して見ていれば問題ないだろう」と軽く流してしまったのだが、このことが後で大きな問題を引き起こしてしまうとは思いもよらなかった。

お釜の滝 ランビレ
 とりあえず8時前にはお釜の滝に到着し、今日の主目的であるランビレを開始した。
 この間特にやることの無い北村には寒い中ひたすら待機してもらうことにし(本来は北村にも同時にランビレのシステムを指導しておくべきなのかもしれないが、実際に自分でやる立場にならないと身につくものではないので、この時はとりあえず見るだけにしてもらった)、顧問の正岡先輩にも手伝ってもらって岩田にランビレの手順を教えることにした。なにしろTopである平澤に何一つ教える必要が無いので、指導する側としては非常に楽なランビレとなったのである。

 実際に動き出してから、平澤は1本目をそこそこの時間で打ち込んだのだが、岩田が下の確保支点の2本目に苦戦しており、正岡さんの指導でやや遠目の位置に打ち込んだ。結果3点流動分散としてはかなり角度が開いてしまったのだが、ランビレの練習が目的ということもあってとりあえず妥協することにした。ほかにも平澤が2本目を打つ際にハーケンを釜の中に落としてしまうという事件があったのだが、パワフル一回生の北村が潜って回収してくれる。この寒い中タフなやつだなあ…。
 結局平澤は3本打ち込み、1本目は微妙だったが2本目は十分に効いていた。岩田は打ち込んだ3本のうち2本目がかなり効いており抜くのに苦労している。どうやら岩田は腕力・握力に不安がありそうなので、ハンマーの打ち方を重点的に指導することにし、結局2時間ほどかけて10時前にランビレは終了した。

 お釜の滝を過ぎるとすぐに、2段12mが現れる。右岸壁をさほど苦労せず直登できる滝なのだが、1段目最上部がナメ状になっているためホールドが頼りなく、雨のときはあまり新人向きではなくなる滝だ。
 とりあえず平澤に1段目を登ってもらって、左岸にある立ち木から補助ザイルで0期メンバーを確保してもらうことにした。岩盤が乾いているせいか皆さほど苦労せずに1段目を突破し、2段目は左岸から小さく巻いて、結局20分ほどで2段12mは突破してしまった。

樋状5m へつり大会
 その後樋状5m直前の12m滝は簡単に巻いて突破。11時前にいよいよ樋状5mにて、恒例のへつり大会を開催することとなった。
 樋状5mは最初下の釜部分を左岸トラバースで突破し、奥の樋状の部分はチムニーホールドか左岸の滑らかな斜面を斜面へつりで突破しなければならないテクニカルな滝である。毎年ワンゲル沢面を楽しませてくれるイベントであったのだが、釜は去年の後期に見たときの状態のままで完全に崩壊しており、さらに滝中央部に横たわっていた丸太が消え、下部の釜の水深は10cm以上浅くなってしまっている。
 もはやへつるまでも無く下を歩いて通過できるようになっていたのだが、トラバース練習のためもあり例年通りへつり突破を試みることにした。Topの平澤は普通に突破したのだが、その際へつり部分でややてこずっていた。
 平澤は現役沢面の中では最強の登攀力を保持しているはずなので、その平澤が苦戦するということは続く岩田・北村の新人組は少し苦しいかもしれないといやな予感はしたものの、とにかく取り付かせてみないことには話にならないので、とりあえずSecの岩田に挑ませて見たのだが1度目はへつり部分ではがれてしまった。その後何回か挑戦させて見たが、なにしろ時間が経てば経つほど寒さと疲労で体力と握力が奪われていってしまうので、数回目のトライが失敗に終わった後に、仕方なく釜を歩かせて直接滝に取り付かせることにした。
 しかしこれが微妙な判断になってしまったのである。
 以前は滝の下部に横たわっていた丸太が崩壊により流されていたせいで、へつりを経由せず直接滝に取り付くのが予想以上に困難になってしまっているのだ(へつり部分の足場は当然水中より高いため、技術的には困難でもより高い位置から滝に取り付けるのである)。何度か正面から滝に取り付かせて見るが有効な足場が見つけられず、ザックもかなり水を吸って重くなってきており状況はまさに泥沼状態に陥りつつあった。いろいろと突破法を考えた末に、結局滝の直前から左岸のへつり部分に取り付いて、一気に高い位置に足を持ち上げるという作戦が取られることになった。
 岩田も残り少ない握力を振り絞って、なんとか数度目のトライで滝に取り付き、チムニー状になっている中段部分に足を乗せることができたのである。おもわず拍手をしたい気分ではあったが、戦いはまだ中盤部分に差し掛かったばかりである。なにしろ体力的にすでに余力の無い岩田には足場を選ぶことができず、さきほどから全身に激しくシャワーを浴びていた。
 そして沢に慣れていない人間がこの低い気温の中で冷たい水流にさらされ続けると、体力もさることながら冷静さと余裕を失ってしまうのである。おそらくこの時の岩田の心情は、早く滝を脱出したい気持ちでいっぱいだっただろうことは予想するに難くなかったのだが、今思えばここで岩田に一度動きを止めて休ませるべきであった。 もちろんチムニー状のほとんど逃げ場の無い滝中であったことは確かなのだが、この時は突破に時間がかかっていたあせりもあり、そのまま惰性で進ませてしまったのである。
 そしてこの判断ミスは、そのまま最悪の結果へとつながってしまった。

 岩田は中段部から右壁面に逃げるコースを取らず、そのまま水流部のチムニー突破を試みたのだが、脱出直前まで指示をしていたTopの平澤が直前で目を離した一瞬のスキに、踏ん張っていた足を滑らし一気に2〜3m程下の中段部まで滑り落ちてしまったのである。
 俺は思わず、「ストップ!ストップ!」などと叫んでいたが、そんなことを言ったところで重力に逆らえるはずも無く、岩田はあっという間に滑り落ちていってしまった。
 ことここにいたってようやく自分の認識の甘さを悟った俺と平澤は慌てて岩田にその場を動かないように指示し、怪我の有無を確認してとにかく一度落ち着くように言い聞かせた。軽い滑落であったとしても、その後のパニック状態で二次災害を起こしてしまう危険性は非常に高いのである。とにかく一旦岩田を休ませ、2度目のトライは慎重に慎重を期して、岩田が今いる中段部から右側の壁面を登るコースを取らせることにした。
 今度はさほど苦労せずに突破した。すぐに後を追った後続の北村はトラバースに慣れており、時間はかかったがスムーズに突破してくれる。突破後岩田の状態を見るために少し早めだが昼食レストを合わせて長めのレストを取ることにし、全員で今後の行動をどうするかについて話し合う事にした。
 岩田は右足首に痛みを訴えていたが、本人に確認したところ行けるとのことであり(後日確認したところどのみち行くしかないので仕方なくといった状態であったようだが)、またこの位置から下降することは困難で、Variation Routeはエスケープ向きではないこと、詰め上がり後は登山道であることなどを総合して、このまま遡行を続けることにした。岩田の足はこの後も水に濡れるため湿布等の治療は無理であったので、とりあえず休憩中は流水で冷やして様子を見ることにした。
 しかし今から考えればせめてテーピング治療は行うべきであった。やはりどこかにたかが捻挫という気持ちがあったのだろう。(どうも俺には自分の体の頑丈さを基準にする悪癖があるようで、この時も得意の根性論で無理させれば何とかなるだろうと甘く考えている節があり、結果として岩田の足はますます傷を広げることになってしまうのである)

つめ上がり
 12時過ぎに行動を再開したのだが、岩田のペースは目に見えて落ちており、やはり足の状態はかなりきつそうである。とりあえずの対策として水に濡れた重いザックをPartyの中で一番軽かったCLのザックと交換したのだが、よく考えればCLのザックが顧問より軽いというのも問題だなあ…。
 ペースは落ちたものの岩田は立ち止まることも無く進み続け、1時過ぎに植林小屋跡に到着、その後40分ほどで赤茶の滝にも到着し、下部で水汲みレストを取ることにした。
 岩田の足の状態で赤茶の滝を無事突破できるのかと多少心配したが、岩盤が乾いていたこともありザイルを出すことすらなくあっさりと突破してくれた。じりじりとしたペースを保ったまま小女郎ヶ池に到着したのは、結局3時過ぎだった。

下山
 ここで岩田の足が限界にきているようなら手近のロープウェイを使って下山する手も一応用意されていたのだが、その場合レンタの回収が困難になることもあり、岩田も「下山道だけならペースを落としてもらえればなんとかなりそうです」とのことだったので、とりあえず沢靴を脱いだ足に湿布を張り、そのまま下山することにした。
 かなりゆっくり目のペースで降りたのだが、いままでの沢の登りよりもむしろ、この下りの登山道のほうが岩田の足に致命的なダメージを与えたようだ。なにしろ下りでは足首にかかる負担をごまかしようが無いため、一歩一歩踏みしめるごとに捻挫を悪化させてしまう。5時過ぎに根性で岩田が下山したときにはすでに足の状態は限界に来ていたようである。

下山後
 さすがにそんな状態の岩田に運転させるわけにはいかず、帰りの運転は平澤にまかせることにした。そしてこの車中の数十分が、いままで張り詰めていた岩田の気力を解いてしまったのだろう。BOXに荷物を置いてみんなと分かれたところまでが岩田の根性の限界であった。とうとうあまりの足の痛みに一歩も歩けなくなってしまった岩田は、無念のヘルプコールをレンタを返しに行っていた平澤に送り、そのまま下宿まで送ってもらうことでどうにか家に帰りつくことができたのである。
 次の日BOXに顔を出さなかった岩田を心配していた我々の元に、京大病院に検査を受けに行っていた岩田から届いたのは全治1ヶ月という最悪の知らせであった。捻挫はわかっていたが、まさか全治1ヶ月とは…。

反省
 初っ端のPart1から沢面の活動が大幅に方向転換を余儀なくされてしまった。やはり減九ということで舐めてかかる気持ちと、新規メンバーを気遣えなかったことが原因だと思われる(出発前の役員会であれほど真介に釘を刺されていたというのに、本当に会わせる顔が無い)。今後の活動としては岩田の足が治ってから予備合宿の続きを行うことになるだろう。夏の合宿はP.W.化することも十分に考えながら、計画を練らなければならないようだ。
 それにしても反省材料の多い山行になってしまった。慣れ親しんだ沢への油断と、自分を基準にして新人の動きを判断する危険性。しかしこれで今期の沢が全て無くなってしまうというわけではない。この反省を今後の予備合宿に生かしていくことで、今期の沢面の活動を実りあるものにすることこそが、リーダーの仕事というものだろう。
 いつだって減九は、我々に始めて沢に入ったときのあのドキドキとする緊張感を思い出させてくれる。だからこそ沢面は飽きることなくPart1に減九谷を選ぶのだろうし、今回のことはその真摯な気持ちを忘れてしまったことへのしっぺ返しなのかもしれない。今期の沢面は大きな痛手を受けたが、その代わりに得られたものがあるのも確かである。
 岩田には一刻も早く回復してもらって、是非とも臆することなく再び沢に挑んでほしい。(まああの根性なら心配するまでも無いと思うが、CLの根性主義は受け継がんほうがいいかもなあ…)


文責:広瀬

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